1.15 金 晴(極寒)

足の悪いらしい婆さんが、爺さんにすがって、よろよろと階段を降りている。爺さんも、頑健というわけではないらしく、手すりにすがって一段一段ゆっくりと足下を確かめるように歩いている。おれはそのふたりの後方を、ケータイの画面を見るふりをしつつ、ゆっくり一定の距離を保ってついていく。階段は幅が狭く、距離を詰めるとふたりを圧迫するのではないかと気を遣ったのである。しばらくふたりの後姿を眺めているうちに、フィッシュマンズの「頼りない天使」という歌詞のフレーズを思い出した。-なんて不思議なことだろう。この世界の真ん中でぼくが頼りだなんてね。……頼りになるはずもないぼくだけがきみの頼りになる、その不思議を感嘆したフレーズである。ふたりが階段を降りきったので、普段の歩速に戻し、ふたりを追い越して、ふたりの顔が見たい気もしたのだが、振り返るのも不自然だったので、そのまま歩き去った。歩き去ってから、ふと連想した。たまに、老夫婦が孤独死(夫婦だから孤独死という言葉は当たらないかもしれないが)して、しばらく発見されないままふたりの死体が放置されるという事件がある。心中というわけではなく、夫か妻の一方がまず突然死する。そして、残された片方もあまり日を置かずに自然死するのである。周りにつきあいのある人間もいないので、死体が腐って強烈な異臭を放ち始めたところでようやく発見されるということになる。老人のことだから、突然死するということはあるだろう。不思議なのは、残された片方が、なぜ連れ合いの死と同期するように“自然死”するのかということだ。棄てられた乳幼児が生きてはいけないように、自分ひとりではもはや最低限の生を営むこともできなくなっているのだろうか。
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by daiouika1967 | 2010-01-16 23:46 | 日記  

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