10月4日

雑然とした仕事が立て込んで、気ぜわしく、鞄にはちくま学芸文庫から出た『西洋哲学小事典』が入っているのだが、落ち着いて本も読む気にならない。散歩するのがせいぜいだ。晴天。涼しい大気のなか、陽射しが気持ちいい。爽やかないい季節である。客のところに行った後、ふらっとブックオフに寄り、文庫を3冊購う。赤瀬川源平『純文学の素』(ちくま文庫)、木村敏『分裂病と他者』(ちくま学芸文庫)、内田百閒『冥途』(ちくま文庫)。赤瀬川源平、木村敏の2冊は100円だったので、合計800円。安い買い物をした。

昨日、一昨日と2日かけて、池島信平・嶋中鵬二『文壇よもやま話』(中公文庫)を読んだ。NHKラジオ番組の「教養特集」として、昭和三十四年から二年間、毎月一回一時間連続放送した人気番組の活字化。池島、嶋中の名編集者二人が聞き手となり、登場した作家は、正宗白鳥、佐々木茂索、山本有三、江戸川乱歩、石川淳、長与善郎、村松梢風、小林秀雄、久保田万太郎、吉川英治、尾崎士郎、丹羽文雄、佐藤春夫、石坂洋次郎、瀧井孝作、中山義秀、野上彌生子、谷崎潤一郎、獅子文六、川端康成、井上靖、室生犀星、舟橋聖一、大佛次郎。上下巻合わせて912ページのボリュームがある。

正宗白鳥の「身も蓋もなさ」は、語りでも、文章と同じようにそう感じられた。
例えば、夫婦関係について、「間に合わせの関係」だと、淡々と喝破する。
≪夫婦ッていろいろあるわけだな。いい加減なところでやっとる(笑)。夫婦というのは、まわりにあるもののことで関係がつくんですからな。世界中でこれが一番、自分と心が合うものという処まで行っているわけはないんだから……まわりのもので、間に合わせでやってるんだから……(笑)。それで自然に入って行くんでしょう。それぞれ深い処へ入って行く人は行くんだろうと思うが……。≫
しょせん何々だ、という強引に達観したような物言いは、おれは嫌いだが、白鳥のように、普通であることの的を射抜いたような的確さには、納得せざるを得ない。
言われてみればあたりまえ。ただその「あたりまえ」をそのまま裸眼で捉えることのできる感性の持ち主はほんとうにすくない。普通の人は、いつも観念的、図式的にものを捉えようとするので、ただあたりまえに考えるということが分からなくなってしまう。
ありのままにあたりまえを捉える白鳥は、老いてもその精神はみずみずしさを保っている。
いまこのときがいちばんおもしろい。
いや、おもしろいというより、いままでずっと今日が続いてきたし、これからもずっと今日がつづていくのだ、というこれもまた「あたりまえ」の時間感覚に生きているだけのことである。

文学に書かれるのは、じっさいに五感で味わった感覚、人間関係の温度(あたたかさや寒気)、そうした体験。それに物語。
体験の物語として語られ意味づけられる。そして物語は体験の強度によって破綻する。
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by daiouika1967 | 2011-10-04 23:30 | 日記  

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