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4月18日(金) 雨のち曇

昨日からの雨が夕方まで降り続いた。雨足はそれほど激しくなく、パラパラといった感じで降り続いた。

午前中は、パソコンに向かって仕事をした。
12時過ぎに家を出て、岐阜に向かう。岐阜のデリヘル事務所で、仕事の打ち合わせがあった。事務所は女の子の待機所も兼ねていて、打ち合わせの間にも、3人の女の子がソファーの上でダラッと寝そべっていた。一人はとても清楚な感じの可愛らしい女の子で、店長に耳元でぼそっと、あの子可愛いですね、と言うと、店長もおれの耳元で、「でも、ちょっと足りないというか、おかしいんですけどね、頭。リピーター、ほとんどいないんですよ」と囁いた。へぇ、と改めてその女の子の方を見ると、彼女はさっきからずっと鏡で自分の顔を見ていたのだが、化粧直しをするでもなくただじっと自分の顔を見ているその様子が、なんだかただならぬものであるようにも思えてきた。「Mさん、ああいう変わったの、好きなんじゃないですか?」と店長が言う。好きというか、ううん、でもたしかに興味はありますね、と応えておく。「ああいうのは、ある日ふいっといなくなって連絡取れなくなりますから、遊ぶなら今ですよ」と店長がにやつく。営業ですか、…とおれもにやっと笑い返した。

4時過ぎ、名古屋に戻った。地下街を歩くと、昨日からの雨で湿気がこもって蒸し暑かった。首元に汗が滲んだ。地下街の喫茶店に入り、岡崎武志『読書の腕前』(光文社新書)の続きを読み継いだ。
岡崎武志は、書評家、古本ライターで、年間3000冊の本が増えていくという書狂である。『読書の腕前』は、その書狂が書いた読書論だ。
読書というのは、拘束度の高い、その意味で不自由な行為である。その拘束を享楽することに、尽きぬ快楽を覚えてしまう“変態”が、書狂としての人生を歩くことになる。
岡崎武志は、そんな“変態”としての半生をふりかえって、こう述懐する。
「読書に費やしたこれまでの膨大な時間を、もっと別の有意義なものに置き換えられなかったのか。そんなふうに悔やんだことは一度もない。一度もない、といま気づいたことに驚いている。ほんとうに、一度もないのだ。そうして生きたきたのだ。だから、明日からも同じように生きていく」。
このような潔い自己肯定は、どこか感動的なものがある。おれは、“書狂”と言うには“狂い”が足りないが、それでも読書を食事と同じ日々の糧とする者として、「そうして生きてきたのだ。だから、明日からも同じように生きていく」と言い切りたいと思う。

この本の中で、一箇所、グルニエの『孤島』から引用されているところがあった。『孤島』は、昔、おれが再三繰り返し読んだ本である。グルニエは、カミュの師としても知られる哲学者で、『孤島』はそのグルニエによる哲学エッセイだ。その引用部分を読んで、また強烈にこの本が読み返したくなってきた。引用されているのは「猫のムールー」と題された章の書き出しである。
「動物たちの世界は、沈黙と跳躍からつくられる。私は彼らが寝ているのを見るのがすきだが、彼らはそうしながら自然との接触をとりもどし、そのように身をゆだねることとひきかえに、自然から一種の精気を受けて、みずからを養うのである。彼らの休息は、われわれの仕事とおなじほどに勤勉である。彼らの睡眠は、われわれの初恋とおなじほどにひたむきである」。
なまじ詩の形をしたものより、よほど強烈なポエジーがある。

地下街から出て、雨も小降りになった街を歩いた。信号待ちで街路樹の葉っぱから雨水が滴っているのを眺めながら、ぼんやりと、おれたちの基調低音とでも言うべき「不安」ということについて考えた。おれたちの基本的な気分が「不安」であるとしたら、それはたぶんおれたちが「自然」から切り離されたところで生活しているせいではないか(ここでいう「自然」は無から有を産する母体のようなものとしてイメージされている)。おれたちは動物なのだから、本来、「自然」との交換においてしか、自らの生を維持することができない存在であるはずだ。しかし現在、おれたちと「自然」との間には、いくつもの他者、制度が介在していて、おれたちは、その他者や制度とどんな関係を結ぶのかということを通してしか、「自然」との交換を行い得なくなっている。「自然」と直截関わることができさえすれば、基調低音のように持続する不安から、おれたちは解放されるのではないだろうか。ただ、「自然」と直截関わる、ということが、具体的などんなライフスタイルとして実現できるのかは、まったく想像できないが。…

岡崎武志のオールタイムベストの作家は、症野潤三なのだそうだ。庄野潤三の小説からの引用もあった。それを読んでいたら、久しぶりに彼の小説が読みたくなった。
それで、栄向の<ブックオフ>に歩き、庄野潤三『庭のつるばら』(新潮文庫)を見つけた。未読の本である。ついでに、つげ義春『義男の青春・別離』(新潮文庫)、筒井康隆『最後の喫煙者 ―自選ドタバタ傑作選』(新潮文庫)、『最後の伝令』(新潮文庫)、東海林さだお『アイウエオの陰謀』(文春文庫)、さそうあきら『タマキトヨヒコ君殺人事件』(双葉文庫)、山田章博『紅色魔術探偵団』(学研)を買った。これだけ買って1300円。

by daiouika1967 | 2008-04-19 11:31 | 日記  

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